Zakkan (雑感)

趣味の雑感。
さらば、青春の急行列車。
3月17日のダイヤ改正を機に、初代「のぞみ」こと、300系新幹線、夜行列車「日本海」などが最終運行となった。テレビなどでも大きく報じられている。


もうひとつ、今夜で姿を消す列車がある。

夜行急行列車「きたぐに」

その目的地を端的に表現しているような列車だ。運行区間は大阪〜新潟。
「きたぐに」は60年以上の歴史があり、元は大阪〜青森を結ぶ列車で、今回同様に姿を消す「日本海」の前身。

「きたぐに」は私の青春を運び続けた夜行列車と言っても過言ではない。
初めて乗車したのは19年前。今日まで通算50回以上乗車したと思われる。新潟市で生活していた6年間は帰省で乗車。そして結婚までの4年半は、当時新潟に住んでいた妻に会いに行くためにほぼ毎月乗車していた。そして新潟の病院で子供が誕生した時もまた、「きたぐに」で向かった。大阪〜新潟581.1kmの旅路は目を閉じると走馬灯のように蘇る。
今となっては家族で夜行列車に乗って移動する機会はない。
最後に乗車したのは2009年5月1日となった。

このとき記憶を辿ってみたい。(2009年ラジオ関西「羽川英樹の快速急行神戸発」羽川英樹アナウンサーへ提供した放送原稿より抜粋)


2009年5月1日。大阪駅10番線。
人気も疎らになった23時すぎ、入線アナウンスとともに神戸方面から3灯のライトがやってきた。「まもなく10番のりばに急行きたぐに・新潟行が入ります。黄色い線の内側でお待ちください・・」ヘッドマークは、新潟の地形をバックに踊る佐渡おけさのデザイン。車体色は白地に窓周りがグレー、青と金の帯が入るJR塗装。当初はオリジナルの青とクリーム・国鉄特急色で、1993年〜96年頃までは藤色に青と緑のラインだった。今の塗装は3代目にあたる。

「きたぐに」の車輌は583系。昼間は座席、夜は寝台車として活用できる世界初の寝台電車。現在の「サンライズエクスプレス」の大先輩にあたる。583系は「月光」「明星」「ゆうづる」「はくつる」等、関西〜九州・首都圏〜東北を結ぶ特急として、わが国の高度経済成長とともに24時間大活躍した。新幹線網の拡大で第一線を退いた現在、急行「きたぐに」が全国唯一の583系定期列車。JRの「急行」という列車種別も今では僅かになった。
編成は10両だが、今日は連休中のためか12両。A寝台車、B寝台車、グリーン車、普通車自由席を連結し、多彩な席が選択できる庶民的な編成も今となっては珍しい。連休だけあって乗客は多い。しかも今や貴重な583系。記念撮影をする人を多く見かけた。

23:27発車。鉄道唱歌のチャイムが流れて車内放送。新大阪を過ぎると車掌さんが検札に回ってきた。ちなみに車内販売や売店・食堂はない。
私はB寝台下段を今夜の宿とする。この583系、通路をはさんで寝台が線路方向に並んでおり、B寝台は昔ながらの3段式。3段寝台も「きたぐに」が全国唯一。さすがに上・中段は狭苦しいが、下段は横幅が座席2人分の広さがあり、窓に面しているので快適に過ごせる。寝台を畳んだら座席になる構造で、約40年以上前の設計とはいえ考案された方はアイデア賞ものだ。私が乗車した車輌は昭和45年製造とあった。
今夜はA・B寝台ともに満員らしい。

ちょうど0時。日付が変わって京都。毎回乗車する度、私はこのあたりで眠ってしまう。金曜の夜、退勤後の乗車は寝付くのが早い。今回も然り。
急行「きたぐに」は北陸線経由で針路を北に取る。ただし、「雷鳥」・「サンダーバード」のように湖西線を経由せず、わざわざ米原経由で遠回りする。夜は長い。

停車駅は大津、彦根、米原、長浜、敦賀、武生、福井、小松、金沢、高岡、富山
深夜から未明にかけて北陸線の主要駅に丹念に停車する。過去、自由席にも乗車したことがあるが、自由席は敦賀までは最終、金沢辺りからは始発列車の役目を担うようになる。
富山から先の停車駅は滑川、魚津、黒部、入善、泊、糸魚川。

眼が覚めてカーテンを開けると目の前にレンガ造りの機関庫があった。糸魚川5:28着。もう夜が明けている。ここから新潟県。
登山の荷物を抱えた一団が下車する。北アルプスへ向かうのか。糸魚川からは松本方面へ大糸線が分岐している。長野から金沢を目指して建設中の北陸新幹線の新しい高架橋も見える。新幹線が開通する日、「きたぐに」は走っているのだろうか・・

「皆様おはようございます。本日は5月2日土曜日です。列車は定刻どおり運行しております・・」朝一番の車内放送が入る。
直江津5:56着。ここでも多数が下車。北陸本線の終着駅。ここから先はJR東日本となる。直江津は新潟県上越市。上杉謙信の居城・春日山城があった場所。

直江津では長野方面からやってきた信越本線と合流する。ゆえに冬場は妙高方面へスキー客の乗換えもある。ウインタースポーツ全盛期の10数年前は、冬の「きたぐに」車内でスキー板を抱えた乗客を多く見かけたものだが、近年は少なくなったような気がする。
直江津では6:17発まで21分の大休止。約1/3の乗客を降ろしたようだ。ホームに降り立つと、遠くに残雪の山々が見える。

直江津から新潟方面への信越本線に入る。ここからが「きたぐに」の旅のハイライト。犀潟で金沢〜越後湯沢を結ぶ特急「はくたか」のバイパス線、北越急行を分岐した後、窓の外に広がるのは日本海。特に柿崎〜柏崎の区間は海岸線に寄り添って走る。

青海川付近は絶景。夏は紺碧の凪。冬は荒れ狂う怒涛。冬場は森昌子の歌の世界よろしく、波しぶきが激しく岩場を叩く。日本海は季節によって様々な表情を見せてくれる。列車名のとおり、北国へやってきた実感が湧く。

柏崎に到着。ここから内陸部に入る。新潟の新緑は美しい。落葉樹が多いのか、寒暖の差が大きいためか、関西では見られないグリーン。遠くの山々の残雪、新緑の木々、水鏡の田んぼに映る列車の影。しばし見とれる。

長岡にかけては豪雪地帯で、冬場は深い雪の中を走る。特に積雪時は走行音が吸収されて車内は静寂が訪れる。時折鉄橋に差し掛かると轟音が響く。吹雪の夜、北陸線の黒部付近で目が覚めたことがある。モノクロの世界に街灯の灯りだけが続いており、窓に凍りついた雪とともに寝ぼけながらも幻想的な情景だったのを思い出す。

自由席には新潟県内からの乗客もいる。長岡で新幹線に乗り換える人も利用しているようだ。来迎寺を過ぎると、平野部に入る。日本一の長さを誇る大河・信濃川を渡り、宮内で上越線と合流し、上越新幹線の高架が近づくと長岡に到着する。7:14着。ここで約半分の乗客が降りる。長岡で14分間息を整える。一夜を明かした車掌さんたちも、あと少しの道中に安堵の表情を見せる。お疲れ様です。
豪雪地帯の長岡は新潟県第2の街。「米百俵の精神」長岡藩の城下町。そして東京方面と北陸方面の分岐点である長岡は、鉄道の要所でもある。駅構内には消雪パイプ、広い機関区には除雪車が待機しており、北国を実感させてくれる。冬場、長岡で停車中に隣にラッセル車が入線して驚いたとともに、鉄路を守る雪まみれの姿を頼もしく思ったことがある。

ここからは新潟平野・一面の田園地帯。空の広さを実感する。車窓北側、彼方に新潟平野のシンボル・弥彦山が見えてきた。
見附を過ぎ、石油ストーブの工場を右手に見て、五十嵐川の鉄橋を渡り、弥彦線の線路が近づくと東三条。7:47着。
再び田園地帯を走り、加茂を過ぎると新津。新津は鉄道の街で、新潟への信越本線、秋田へ向かう羽越本線、会津若松・郡山へ向かう磐越西線が交差するジャンクション。米原のような性格の街。以前は「新津市」だったが、現在は新潟市に合併している。

ベッドの主をなくした寝台車。開けっ放しのカーテンや無造作に畳まれた毛布はまるでチェックアウト時間に遅れて出たホテルのようだ。
「きたぐに」は新津〜新潟間、最後の約15分は快速列車に格下げされる。乗車できるのは自由席車4両部分のみだが、高校生や一般通勤客が583系に乗車するのは不思議な光景。
煎餅の工場がある亀田を発車するといよいよ終点・新潟。
大きな電車区が見えると鉄道唱歌とともに車内放送が入る。
「本日は大阪からのきたぐに号をご利用いただきありがとうございました」
久しぶりに見る大きな市街地。左に大きくカーブして新潟駅5番線にゆっくり滑り込む。8:29着。上越新幹線・信越本線・越後線・白新線の終着・始発駅でもある新潟。折戸になっている乗降ドアが開くと、少しヒンヤリした朝の空気が迎えてくれた。
新潟市は日本海側最大の都市であり、佐渡島への玄関口でもある。(完)


時代から取り残されたような庶民的な急行「きたぐに」の旅路は今夜が最後。
今後は連休の臨時列車として運行が予定されているというが、わずかな日数と思われる。「きたぐに」使用されている電車は製造から約40年以上経過し、老朽化がすすんでいる。電車の寿命と運命を共にするようだ。
後継車両は開発されることなく、時代の流れとともに姿を消す。
2014年の北陸新幹線金沢開業まで持ちこたえることはなかった。

わが人生に多大な影響を与えた急行「きたぐに」
目的地に待つ人、故郷、希望、喜び、葛藤・・様々な想いを運んだ列車。鉄道には乗客の数だけドラマがある。300系新幹線も同じだろう。


どこかで聞いた事があるようなフレーズですが・・・


今、万感の想いを込めて汽笛が鳴る。

さらば、急行「きたぐに」

さらば、青春の急行列車!



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