Zakkan (雑感)

趣味の雑感。
遠い日の写生大会
彼岸を過ぎて朝晩ずいぶん涼しくなった。芸術の秋。


意外に思われるかもしれないが、私は小学校の図画工作の成績は決して良いものではなかった。
要求されたものに応えられない、頑固で不器用な子供だったから?
え、今もそうですって・・?


今から28年前、小学校4年の時だったか、地域に出向いて写生するという学年行事の授業があった。

行先は、街角、商店、駅、工場など、多くの人が働き、生活している現場。

もちろん私は「駅」にときめいた。
当時の国鉄ローカル駅は、自動改札はおろか自動券売機すらなく、ガラス越しに窓口で切符を買い、改札口でパンチ(スタンプではなく切符の一部をカットする)を入れてもらってホームへ入るというものだった。
先発・次発のLED表示なんてものはない。時・分の数字が並ぶボックスが天井から吊ってあり、駅員さんが下にあるハンドルを回して次の列車の時刻を表示していた。完全なアナログの世界。
小荷物扱い窓口というものもあり、今でいう宅配便の窓口。荷物車に搭載して目的地の駅まで宅配荷物を送ってくれていた。
そんな改札風景を描けるなんてすばらしい♪


ところが学校側が勝手に写生場所を振り分けた。当時の教育はそういうものだったといえばそれまでだが仕方ない。

私は自動車修理工場に行くことになったが、駅に行けなかった無念さが残る。ジャッキの前に座って向かい側のクルマを描きはじめた。ほどなく、修理車両がやってきた。工場の人に「危ないから下がるように」言われ場所移動。
結局、何を描いていいのか分からず、グレー地のアスファルト上に自動車が点在するだけの絵になってしまった。


後日、担任の先生より声が掛かった。
何を描きたいのか分からず、対象物が点在しており絵が委縮している。もう一度同じものを想像しながら描くように言われた。
これには全く納得がいかず、抗議する気の強さもない私は、ただ泣きじゃくるしかなかった。


放課後描き直しをするために指定された教室へ画材を持って行く。

同じ教室に絵を描く子供が集まっている。なんだ、コイツらもやり直し組かと思っていたら・・・彼らは“児童美術展に出品するため、加筆指導を受けて完成度を上げるために集められている”いわゆるエリート組だった・・。

これは屈辱以外何物でもない。明らかに自分は浮いている。

サラブレッド厩舎の脇で農耕馬が水を飲ませてもらっているみたいだった。


エリート組を指導する先生。おそらく図工分野を担当しているのだろう。イチから白い画用紙に描いている私に、

「ん?君はお休みしていたのかな?」

「いいえ・・やり直しです・・」

我が身の無能を恥じながら、絵を隠しながら、言われたものを涙目で描き直すしかなかった。結局、最後まで完成することはなく、雪景色の如く画用紙の白地が目立つ作品が教室背面に掲示された。こんなものは早く撤去してもらいたかった。


本サイトに時々登場する、幼馴染みで鉄道仲間のI君は、めでたく駅に行くことができた。その嬉しさから、改札口の背後には新製間もないディーゼルカー「キハ40」が描いてあった。彼にとっては、誇らしげな作品だったと思う。


今の我が子達同様、紙とペンさえあれば落書きしていた私は悔しさのあまり、家に帰って駅風景を想像しながらペンを走らせた。

駅改札だけではなく、ワイヤーで繋がれた腕木式信号機も描いた。構内の「右よし 左よし」表示も・・。それは誰にも見せられることはなかった。



以降、対象物に忠実で上手い絵を描かなければ認めてもらえないという観念に囚われて、定石どおりに固執するようになった。中学校の美術で褒めてもらったことがあるが、後で世の中に上手い人は五万といることに気づく。10代後半で再び自信を喪失する。


結局、自分の世界に胸を張ればよいと確信したのは10年後、20歳の時だった。10歳のあの時に封じ込めた、自身の世界を憚ることなく表に出したことが契機だった。

そう。農耕馬にしか見えない世界があった。


造形活動は、人に求められた内容ではなく、自身が自由な発想で感じたことを正直に形にすることではないだろうか。算数のように正答があるものではない。



私は子供の作品を、誉めることはあっても「指導する」ことはしたくない。
「全て認めること」=「のびのびと制作すること」だと信じる。



自分は図工が苦手なので子供に教えられない・・という声を聞いたことがある。


いやいや、教えなくていいんです。何を描いたか説明してもらい、共感できればばいいんです。



敢えて言えば、鉛筆を削っておく、幼児・低学年の水彩画には太い筆を与えてあげることかもしれない。
大人にできることは、良い作品を作るための環境を整えてあげることだと思う。



運動会では小学校の校庭で昔を思い出しながら、そして家ではアンパンマン号の車内を描こうとしている息子を見ながら遠い日を思った。
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