Zakkan (雑感)

趣味の雑感。
拝啓。K先生

最近帰宅が遅め。いつも子供らは寝ている。
玄関を開けると、ウォ〜ンダダダダダ・・決まってミシンの音がする。趣味はまことに結構。さておき、

「油揚げ焼いといたよ」

「お、いいね〜!」

トースターで炙った油揚げを生姜醤油で頂くと最高の肴になる。これは私の中で最も心の糧になるアテでもある。
関西では薄揚げしか店頭で見かけないが、新潟にはカステラのような分厚い油揚げがある。(“あぶらげ”という)今回は薄揚げだったが、通販で新潟の「あぶらげ」を久々に食べたいものだ。
これは郷土料理の一種で、“栃尾のあぶらげ”が有名。栃尾と言っても県外の方には分かりにくいが、あの百鬼夜行のナローゲージ鉄道「栃尾鉄道・越後交通栃尾線」の終点といえば分かりやすい。って余計に分からないか・・栃尾市は現在、長岡市に合併。


その「あぶらげ」はK先生の好物だった。
ちょうど12年前の今頃だった。

「ん〜みんなで一度我が家へ夕食にいらっしゃい」

K先生は東京都八王子市の出身だが、新潟市内・鳥屋野潟湖畔の瀟洒なマンションの高層階に住んでおり、新潟に骨を埋めるつもりらしい。(2002年退官)
K先生は私の担当教官ではなかったものの、古株で残る院生はアシスタントもするので、自然と交流が深くなる。何よりもK先生が結構な呑み助だったという理由もある。

「ん〜あのね、この酒が旨いんだよ」

出てきたのは「朝日山」現地では広く出回ってリーズナブルだが左党好み。

K先生は工芸・特に漆器が専門でその造詣は深い。酒飲みのオッサンのようでも実はその道の重鎮だった。
漆はウルシオールという主成分とゴム質、糖蛋白、水分で構成されており、ゴム質に含まれるラッカラーゼの酸化により硬化する。乾燥には多量の酸素と反応を促進するための適度な湿度が必要だという。
ラッカーやペンキ塗料が揮発で乾燥する、風通しの良い場所に置く手法とは異なる。

さて、本人の著書によると、漆の乾燥はヒバ等の木材で作った戸棚に収納する。この戸棚を「風呂」という。適切な温湿度で乾燥させないと、朱漆などは黒変することもある。
冬季の乾燥を速める手段として、酒を口に含んでひと吹きする方法があるという。アルコールが塗膜中への酸素の吸収を助けることがその理由。
意外にも大根の蒸し汁でも同じ効果を発揮するという。
ここからがK先生らしい記述。

「風呂吹き大根という素朴な料理は、木枯らし吹く頃の晩酌の肴として、まことに風情がある」

ちなみに「風呂吹き大根」名称の由来は、風呂の釜を焚くときのようにフウフウ息をかけながら食べるからという説もあるが、先述の漆乾燥棚の中に蒸し汁をひと吹きしたことに由来するとも言われるらしい。

油揚げで思い出したK先生。近年体調を崩された時期があったようだがお元気だろうか。食生活はあまり褒められたものではなかったと思う。外食すると天ぷらで、3時のお茶に女子学生が用意したロッテの「チョコパイ」を食べていた・・。
ちなみに当時のK先生は三菱「ディアマンテ・30R」に乗っていた。今も時々見かける三菱高級車好きの中高年。私は偶然夜中に先生の自宅近くを通りかかってルームランプが点きっぱなしであるのを発見して連絡したことがある。

「昨夜はありがとう。ん〜君はこんな時間に女性と街道沿いの“モーテル”にでも寄ってたのかと思ったよ」

さすがは1937年生の表現・・(実際“モーテル”には寄ってません;)

拝啓。K先生。今も漆芸に励んでおられますか。

#最近、東京の中央大で卒業生が勝手に逆恨みして教授を殺害するという残酷な事件があったばかり。
やはりお互いを知るためのコミュニケーションは大事だ。勿論教授には何の罪もないが、特異な人格の被告の担当が仇になったのかもしれない。教授は学生を選べない。無念としか言いようがない。
何よりも人は心。ヤヤコシイ時代だが、人を動かすには、指導するには、ココロが通じ合うことがスタートなのかもしれない。



| Rail&Hand | - | 22:24 | - | - |
+ SELECTED ENTRIES
+ ARCHIVES
+ LINKS
+ PROFILE