2007.04.30 Monday
鉄道(実物)三昧
岡山県の観光キャンペーンの一環で、「美作スローライフ列車」という列車がJR因美線の津山〜智頭間をこの連休に走るという。しかも10年前まで走っていた急行「砂丘」(岡山〜鳥取)と同型のディーゼル動車。I君と一緒に乗車した。
I君のレガシィB4に同乗、中国自動車道に入り岡山県・津山市へ向かう。今日は初夏の陽気。津山市内に車を置いて、JR津山駅へ到着したのは11時半。津山駅は昔とほとんど変わっていない。
ほどなく懐かしい国鉄急行色のキハ58・65型の2両編成がやってきた。数少なくなった車で、わざわざ四国から借りてきたらしい。
12:05津山を発車。車内は家族連れや鉄道マニアらしき姿もちらほら。急に企画されたイベントなのか、都市から遠い不便な土地なのか、乗客は控えめ。これは臨時の普通列車なので、普通の切符で乗れる。
東津山で姫新線と別れ、因美線へ入る。子供の頃、同線を経由する急行で鳥取へ行ったのを思い出す。当時は6両位連結されていて、車内販売もあった。駅を通過しながら、補助運転士がタブレットを輪投げのように投げ、次の区間のタブレットを腕ですくい取っていた。運転席から「タブレットぉ!マルよし!」「マルヨシ!」等と換呼が聞こえたりした。
タブレットとは列車が単線の駅間を走る際の通行手形。三角や丸の金属玉がワッカ付のケースに入れられており、その区間を走る列車が携帯し、すれ違う駅で反対方向の列車に渡し、正面衝突を防ぐ原始的な運転管理方法。映画「鉄道員(ぽっぽや)」で駅長の高倉健が肩に掛けている。
因美線は最後まで急行列車がタブレットを収受して走っていた路線でもある。今は腕木式信号機もタブレットも、急行も姿を消した。列車本数も減らされて、雲行きの怪しいローカル線になってしまった。
高野駅に到着。駅前にどこかで見たことのある黒いクラウンが停まっている。まさか?その先の三浦駅でも。そしてカメラを構えていたのは昨日会ったTさんだった!
美作加茂駅に到着。ここで40分停車する。町のイベントが開催されている。あらためてTさんに挨拶。「久しぶりに“おっかけ”をしている」とのこと。ここで見届けて帰るとらしい。
美作加茂を発車し、いよいよ県境を目指す。のどかな沿線風景、新緑の中を走る。山間部では代掻きも始まっている。点在する農家。山の緑に、列車の赤とクリーム色が映える。まるで原田泰治の絵画のようだ。沿線ではカメラを構える人が多い。地元の新聞等でも伝えられているのか、農作業の手を休めて、往時の急行列車を見届ける人も。孫と手を振る祖父母など、微笑ましい。
「鉄」は男ばっかりかと思いきや、「鉄子」にも出会った。同行者の撮影に付き合っているパターンだろうが、鉄道業への女性の進出という今の時代にも頷ける。近年はデジカメや携帯電話のカメラの普及で、気軽に写真撮影ができるようになったということもあるだろう。
長いトンネルで県境の物見峠を越える。子供の頃、急行の中で相席になったおばさんがヤクルトをくれたのはこのトンネルだったと思う。「ありがとう」を何度言っても騒音にかき消されたのが印象に残っている。その人は始発からずっと一緒で、鳥取のひとつ手前の郡家(こおげ)で降りたんだったか。
終点・智頭に到着。わずか7分で折り返す。ここは鳥取県。岡山県のイベントなので構っている余裕がないのか、接続する智頭急行のダイヤに追われるのか。
再び美作加茂で約1時間停車。大部分の人は先行する普通列車で津山へ向かった。空いた車内で窓を開ける。今時、窓の開く車両は少なくなった。窓際の小さなテーブル、心地よいそよ風と排ガスの匂い、車輪のリズム、木造の小さな駅、約20年前に毎日見届けた、山陰・中国地方へ向かう急行列車の記憶が蘇る。この列車を因美線に封じ込めれば客寄せにもなるだろうと思うが、これは「乗る」より「撮る」もののようだ。
16:54 津山に到着。往復1,640円で約5時間を堪能。スローライフの名前にふさわしい、懐かしい小さな旅。湯郷温泉で汗を流して家路についた。